映画「ゴスフォード・パーク」(Gosford Park, 2001)   

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ロバート・アルトマン監督    マギー・スミス アラン・ベイツ  ヘレン・ミレン 

寝る前にソファに座って10分くらいかけて歯を磨くことを日課にしています。洗面所での歯磨きはあまり時間をかけることなくすぐに切り上げてしまいがちなので、ソファでリラックスしてテレビでも観ながら最低10分は歯ブラシを動かしなさいと行きつけの歯医者さんに言われました。私が寝るのは大抵深夜過ぎなので、たいがいお笑い番組などを観ながら歯を磨くことになります。そういえば、はるな愛の「エアあやや」に出会ったのもこんなときでしたね。あの時は、深夜にもかかわらずイヤホンをつけたまま(先に寝た家族に迷惑がかからないようにイヤホンをしています)、声を出して大笑いしてしまいましたっけ。

さて前置きが長くなりましたが、その日もイヤホンをつけてテレビを観ながら歯を磨こうと思い、チャンネルを変えていると、画面の美しい映画に行き当たりました。しかも聞こえてくるのは美しいイギリス英語。女性の服装からして、どうやら1930年代のイギリスの上流階級の人々を描いているよう。と思っていると、画面の雰囲気ががらりと変わり、屋敷で働いている人々の仕事ぶりが映ります。上の階にいる貴族たちの悪口や噂話をしながら忙しそうに働いています。ゆったりと時間が過ぎている貴族たちの立ち居振る舞いとの対照的なこと。よく見ると、主役をはれそうな大物俳優たちがたくさん出ています。マギー・スミス、アラン・ベイツ、ヘレン・ミレン。お、「モーリス」のジェームズ・ウィルビーもいるじゃないの。あの意地悪そうな女は「イングリッシュ・ペイシェント」のクリスティン・スコット・トーマスだわ。エミリー・ワトソンは労働者のほうなのね。お友達がファンだというクライヴ・オーウェンも出ているなあ。アメリカ人のライアン・フィリップ君もいるわ。変な英語をしゃべっているわ。。。。

一気に引き込まれてしまいました。すぐに新聞でチェックすると、すでに開始から10分ほど経過しているよう。この時点で、絶対レンタルショップで借りて最初のシーンを観ようと思いました。そして思ったのは、良い映画というのは一瞬にして観客をひきつける力があるのだなあということ。画面からかもし出される、なんともいえない緊張感とコミカルな雰囲気、屋敷の重厚なたたずまいに、時代を感じさせる髪型や衣装。学生のころよく読んだアガサ・クリスティの推理小説の雰囲気みたいだなあなんて思いました。その日は疲れていてそれ以上見ることができなかったので、翌日DVDをレンタルしてじっくり見ました。さすが群像劇の名手ロバート・アルトマン監督です。それぞれのキャラクターを興味深く描いていて、この人何を考えているんだろう~、どんな裏があり、どんな下心があるんだろう、と考えずにはおられないような作りになっていました。どの人物も主役に感じられるように物語を構築していくのって難しいと思うけれど、本当うまく作っていると思いました。クローズアップのタイミングなど、カメラワークも妙もあるのでしょうね。

映画の前半は、1930年代(正確には1932年11 月)の貴族のパーティでの様子や、金銭をめぐる力関係、そしてその貴族に仕える従者たちの人間模様に焦点が当てられています。この時代、貴族ひとりひとりに着替えなどを手伝う従者がついていたようです。従者を連れてこなかった女性はみんなから馬鹿にされたりして、怖い世界です~。それにしても、3歳児じゃあるまいし、着替えくらい一人でできそうなものですがねえ。同じ人間なのに、着替えるものと着替えを手伝うものの間には大きな隔たりがあり、会話も片道方向しかないなんて。この「従者」という言葉には「valet」(バレーと発音)が使われていました。そういえば、アメリカでは、少し立派めなレストランには必ず「valet parking」というシステムがあって、レストランの玄関先に車を止めて、係りの人に鍵を渡し、駐車してもらうというシステムになっています。もちろんチップつき。チップをけちりたいから自分で駐車したいと思ってもそれはできないことになっています。アメリカに住んでいた頃、貧乏性の夫は最初の頃はよく愚痴っていましたわ。私も、なんだかこそばゆく感じたことを思い出します。

映画は後半になると、殺人事件が起き、徐々に貴族側ではなく従者側に焦点が当たり、犯人探しにも興味が湧いてきます。ただし、犯人探しが物語の核ではないようです。それぞれの人物の過去に思いをめぐらして、この時代の人間の格差が生み出す不条理やイギリスという国について考えることを楽しむ、そんな映画だったように思います。DVDの特典映像でクリスティン・スコット・トーマスが「イギリスの恥部があきらかにされてよかったわ」というようなことを語っていましたが、どの国にも恥部があり歴史がある。イギリスには美しくも重厚な歴史があるなあと感じました。

役者さんで気になったのは、なぜかまず、エミリー・ワトソン。この人、大柄でかわいい顔をしていますね。ファニーフェイスというのかな。「ほんとうのジャクリーヌ・デュプレ」や「アンジェラの灰」を観ていますが、メイド長ということでコックニー・イングリッシュをしゃべっていました。それから、アメリカ人の(役柄も)ライアン・フィリップ。この人は私、なぜか気になるんですよ。リーズ・ウィザースプーンと結婚していたときも、リーズが明るい太陽のような雰囲気の人なのに、ライアンのほうは暗い雰囲気で。奥さんがどんどん売れてきているのに、なかなか売れなくて。でも、最近「アメリカを売った男」などで見かけるようになって。でもやはり、ほとんど笑ったところは見たことがない。美しい顔をしているんだけれどいつも不幸そうな顔をしています。なんだか、気になるなあ。心配だなあ(笑)。 それに比べて、クライヴ・オーエンは全然心配ないでしょ、ってかんじ。ドンと構えて貫禄がありますね。ちょっと、ルー大柴にかぶっちゃうところがなきにしもあらずなんだけれど(すみません)、かっこいいですよね。今回も出番は少なかったけれどかっこよかったです~。マギー・スミスのメイド役のケリー・マクドナルドは、売り出し中の女優さんかな。「ノーカントリー」にも出ていました。スコットランドなまりの英語をしゃべり、スコットランド出身と偽る(とあとでわかる)ライアン・フィリップの英語を「変なアクセントだわ」と言っていました。ライアンはアメリカ人だとばれてからはアメリカ英語をしゃべっていました。この辺の英語の使い分けも私には見所のひとつでした。

食事のシーン、雉狩りのシーン、雨のシーン、全てが絵のように美しい映画でした。
ロバート・アルトマン監督の初期の作品「M★A★S★H マッシュ」はまだ観ていないので、ぜひ観なくちゃ。

by oakpark | 2009-09-07 23:23 | 映画

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