映画「リリィ、はちみつ色の秘密」(The Secret of Bees,2008)   

映画「リリィ、はちみつ色の秘密」(The Secret of Bees,2008)_e0123392_21204452.jpg

監督:ジーナ・プリンス=バイスウッド  出演:ダコタ・ファニング、クイーン・ラティファ、ジェニファー・ハドソン、アリシア・キーズ、ソフィー・オコネドー、ポール・ベタニー

新聞にジーナ・プリンス=バイスウッド監督のインタビュー記事が載っていて、面白そうな映画だなと思ったので友達と一緒に観てきました。ちょうど、カルチャーセンターの今期のテーマである黒人差別に絡む内容の映画のようだったし。私の予測はどんぴしゃで、一回目の講義で取り上げられた映画「ミシシッピ・バーニング」と全く同じ時代、1964年が舞台の映画でした。せりふの中にもこういうのがありました。ジェニファー・ハドソンン演じる黒人の使用人が選挙権を得るために登録に行くシーンで、白人の少女のダコタ・ファニングが「ミシシッピでは選挙登録をした黒人が殺されたようよ」と言い、ハドソンが「ここはミシシッピじゃないわ」と言うのです。これは実際にあった事件で、「ミシシッピ・バーニング」は、まさにこの事件を調査しに事件のあった町にやって来たFBIと白人至上主義者のKKKとの攻防を描いた映画でした。

とはいっても、今回の映画の主役はあくまでもダコタ・ファニングちゃんです。人種差別問題を扱った映画というよりは、ダコタちゃん演じるリリィの自分探しのたびがテーマになった映画といえるでしょう。私がはじめてダコタちゃんをを見たのはショーン・ペンが知的障害のある父親役を演じた「アイ・アム・サム」でした。ショーンの演技力にも驚きましたが、彼女のかわいらしさ、いじらしさに大いに涙したものです。そんな彼女もその後順調にキャリアを築き、今ではすっかり子役を卒業して大人の入り口に立つ美しい少女に成長しました。将来かなりの美人になりそうな予感がします。これにどんなふうに「色気」がついていくか、今後要注目女優ですヨ。一緒に行ったお友達とも話したのですが、意志の強そうなまなざしは、若い頃の安達祐実にも少し似ているようにも思いました。こういっちゃなんだけれど、安達祐美は大人への脱皮に失敗したけれど、ダコタちゃんはいけそうな気がしますね~。息の長い役者になるには「色気」と「個性」が必要かな。がんばれ、ダコタちゃん!

さて、ストーリを説明します。
幼い頃に、あやまって母親を撃ち殺してしまったリリィ(ダコタ)は、ずっとそのことに負い目を抱いたまま成長していきます。父親にも冷たくされて、誰からにも愛されていないと思い込んでいたリリィは、あるとき父の横暴に耐え切れず、やはり白人から暴力を受けて落ち込んでいた使用人のロザリン(ジェニファー・ハドソン)を誘って、母の遺品のなかに名前が書き記されていた南部の町に出かけていきます。着いてみると、そこははちみつ農園で、オーガスト、ジューン、メイの三姉妹が切り盛りしていました。リリィは、長女のオーガストに、ここで働く代わりにおいてほしいと頼み込み、あまり良い顔をしない次女のジューンが気になりつつも、ロザリンとともに住み込むことになります。包容力のある長女のオーガスト、知的で神経質で恋人の求婚を拒絶し続けている、どこかおびえた風情のジューン、ちょっとしたことですぐにパニックになってしまう繊細なメイとの、穏やかな日々を過ごすリリィ。繁忙期に手伝いに来ている弁護士志望の青年ザックとも親しくなり、同じ年頃の二人の間に淡い恋心も芽生えます。しかし、黒人のザックと白人のリリィが一緒に映画を観に行ったことから、まだ人種隔離政策の時代にあった町は大騒ぎになり、大事件に発展してしまうのです。はたしてリリィは事件を乗り越え母のルーツを探し当てることができるのか。


私は、映画を観て監督の技量がわかるというほど映画通ではありませんが、この映画を観て女性監督らしい、丁寧な画面作りだなと感じました。ストーリーにも緩急があり、ゆっくりと時間が流れ、丁寧に映像を見せる時間帯と、急速にお話が進む時間帯とが、いい具合にミックスされていて、110分間、全然飽きることがありませんでした。 また、どこかで見たことのある俳優さん、はじめて見る俳優さんの力のこもった演技もなかなかよかったです。長女役のクイーン・ラティファは私は「ヘア・スプレイ」が印象深い。「ドリーム・ガールズ」のジェニファー・ハドソンともども、チラッと歌うシーンもありました(別々のシーンで)。三女役のソフィー・オコネドーは「ホテル・ルワンダ」での激しい演技が印象的(このときはちょっとオーバーアクションにも思えた)でしたが、今回も激しい演技でした。調べると、ケンブリッジ出の才媛なのですね。それから、お父さん役のボール・ペタニー。怖かったあ~。この人、ほんと、味のある役者さんですね。私の好きな「ロック・ユー」や「ウインブルドン」なんかではおちゃらけた役だったのに、今回は怖かったなあ。先日観た「帰らない日々」のジェニファー・コネリーのだんなさんですよね。いいカップルだと思いますねえ。ザック役の俳優さんはかわいらしく、次女の恋人役の俳優さんはかっこよかったです。

黒人の人、というと、私には正直言ってまだまだ遠い存在です。黒人の友人もいません。海外旅行をして売店の店員と客というくらいの関係でしか、黒人と接する機会はありませんでした。ただ、一度だけ良い印象として覚えているのが3年前のメンフィス旅行でグレースランドツアーに出かけたときのことです。そのとき私は、ちょっと人と違うことをしてやろうと思い、浴衣を着て行っていたのです。すると邸宅内の警備のアルバイトらしき、高校生くらいの黒人の少年が「素敵ですね」というようなことを言って、かわいらしくにこっと笑ってくれたのです。だから私は「アルバイトなのですか?」と尋ねたりしました。すると「そうです」とやはりにこっと笑ってくれました。それまで私は、黒人はアジア人にはあまり親しげには話さないと思っていたので、不意をつかれてびっくりしたと同時にとてもうれしかったことを覚えています。エルヴィスの愛したメンフィスは本当に黒人の多い町で、グレースランド周辺の売店の店員はほとんどが黒人でした。黒人の中にエルヴィスファンの人はほとんどいないだろうから、メンフィスに住む彼らにとってのエルヴィスは「仕事を作り出してくれる人」という存在かもしれません。今では人種隔離政策などという醜い制度はなくなりましたが、やはり黒人と白人の住んでいる地域は明らかに違っているようです。1964年頃のように、黒人が白人としゃべるだけで、並んで歩くだけで、好奇の目にさらされるということはなくなりましたが、今でもどこかにしこりはあるのかもしれません。でも、黒人の大統領が生まれたということで、アメリカの人種問題はまた新たステージに進むのでしょうね。そういう意味で、タイムリーな映画だったとも言えます。アメリカではどのくらいヒットしたのか知りませんが、日本では、上映映画館が少ないのが少し残念です。良い映画なのに。

同じビル内にあるレストランでのランチもおいしかったし、充実した良い一日だったわ。

by oakpark | 2009-04-22 23:01 | 映画

<< 映画「マルコムX」 国別対抗戦 ~フィギュアスケート~ >>